奇天烈トロッコ
〜至高のナロー軌道43選〜
青森恒憲 著
Chapter-11 トロッコ王国・富山
時は流れ、現在ではすっかり数を減らしてしまったトロッコ。
ですが、今なお三ヶ所のトロッコが活躍を続けるエリアがあります。
それは富山県。
立派な施設を持つお役所日の丸のトロッコ、摂氏160度の岩盤トンネルを貫いたトロッコ、そして山奥に住む人々の生活物資を運ぶトロッコ、なんともヴァラエティに富んだ面々なのです。
昔のような接し方は難しいかも知れませんが、現役のトロッコを楽しむには最適のエリアだと思います。
先ずはボクとしても一番親しみのある立山砂防軌道を紹介しましょう。
あまりにも有名な軌道ですので概要は省略しますが、昔に比べると敷居が高く近寄りがたい存在になりました。
コンプライアンスが重要視される昨今、これは仕方ないと思っています。
砂防軌道のトロッコを見ることはカンタンです。
富山地方鉄道立山線の終点、立山駅下車徒歩1分のところに立山砂防事務所があり、軌道はここから出発しています。
敷地内への無断立入はご遠慮ください。
トロッコ見物には砂防博物館と砂防事務所車庫の間にある道を通って建屋の裏手へ向かいます。何か所かでスイッチバック下の軌道と車庫の様子を間近で見られますよ。
また駅前ロータリーを出て左折、大型バスの駐車場から軌道構内終点部に接近できます。ここでは荷扱いの様子などが見られます。
また砂防博物館主催の体験学習会に参加すれば、千寿ヶ原〜水谷間を片道だけ人車に乗ることが出来ます。
こちらは募集日程から希望日を選んで応募し、当選すれば参加できるというシステムです。競争率は概ね二倍前後とのことです。
なお立山駅周辺にお泊りの際は、駅前にある千寿荘を是非ご利用ください。
続いて関西電力黒部上部軌道です。
この上部軌道、立山通いをしていた時代から存在は知っていましたが、鉱山などとは比較にならないくらい厳しい立入制限がありました。
オマケにほぼ全てがトンネルの中で、唯一山奥の仙人谷橋梁で僅かな区間シャバに出るだけ。
この様子を見るために、「知られざるナローたち」で共著のSさんとMさんは登山装備で山道を辿り、途中で山小屋に泊まりながら仙人谷まで行ったという逸話があります。
そんな万人をも寄せ付けなかった上部軌道でしたが、何年か前から「黒部ルート見学コース」として突如公開されました。
こちらも関西電力が募集する日程から希望する日を選んで応募するシステムです。
当選した場合、欅平〜黒部ダムの間を片道だけ通ることが出来ます。
ちなみにボクは2013年に一度の応募で当選を果たしました(^^♪
それでは上部軌道についてご説明いたしましょう。
1936年、欅平駅に隣接する黒部川第三発電所と約6km上流の仙人谷にダムを建設するため、資材運搬軌道の隧道掘削が始められました。
このダム建設には調査段階から悲劇が始まっており、水平歩道で資材などを運ぶ人夫の転落事故は決して珍しくなかったそうです。
隧道工事は歴史的困難を極めました。
掘削は仙人谷から着手されましたが、30m程の地点で岩盤温度が70℃を超え、奥へ進むにつれて温度は止め処なく上昇を続けます。
1938年夏には岩盤温度が100℃に達し、坑内は過酷極まりない状況になってしまいました。
黒部川から引いて来た冷水を体にかけながらの作業、地熱によって自然発火したダイナマイト暴発事故、まさに地獄絵図と化した現場で精神に異常をきたす人夫。
加えて雪崩によって宿舎が突き飛ばされる事故なども発生し、失った犠牲者は300名を超えるという悲惨な突貫工事となったのです。
岩盤の温度は最高で165℃にも達したという記述があります。これには諸説あり、現在では「160℃」とするのがオフィシャルとのことです。
建設時の様子は吉村昭氏著の「高熱隧道」という小説に書かれていますので、よろしければご覧になってみてください。
1939年に水路隧道が貫通、翌年には仙人谷ダムが竣工し、黒部川第三発電所は発電を開始するに至りました。
1941年には件の高熱隧道に軌道が敷設され、欅平上部〜仙人谷間が開通します。この軌道は1963年に延伸され、黒部川第四発電所関連施設の資材運搬にも活躍しました。
近い将来、このトロッコは一般客が利用できる路線になるそうです。
最後は小口川資材運搬軌道です。
場所は富山地方鉄道立山線の有峰口駅から県道67号線を富山方面に2.5km進み、小口川沿いの道へ左折し、更に2.5kmほど行った地点が麓。
更に獣道を登って登って約200mの高度を稼いだところが昔の軌道起点です。
物資の運搬には索道が使われており、何名かの方々からコレに乗って登ったというお話を聞きました。
ボクの場合、極度の高所恐怖症ゆえ、絶対に真似できません(;^ω^)
かつては3kmほどの軌道でしたが、約半分が廃止され、替わりに軌道跡をトラックが走っていました。
その昔は下部軌道も存在し、旧い地図をアテにして訪問したボクはその廃線跡を見て「廃止されたのか」と思い込んで退散したというエピソードがあります。
その辺のお話は「奇天烈トロッコ」に書きましたので是非ご覧ください(笑)
このトロッコは北陸電力小口川第三発電所への資材、生活物資の運搬に使われています。ボクが最後に訪問したのは1982年でした。
それがまさか今もなお存続しているというのは驚愕の極みです。
改造機関車は幾度か新車に交代してきたようで、現在はパジェロミニ改造車が使われているとか。
興味を持たれた方は行かれてみては如何でしょうか。但し、ちょっとハードルが高いです。
アクセスは鉄道+徒歩ではかなりキツいです。有峰口駅からは何の交通機関もありません。ですからクルマ利用が賢明でしょう。
索道に人を乗せることは禁止されたようです。従って高低差200mの獣道を往復しなければいけません。
また近年ではクマの出没が顕著とのことですので、それなりの覚悟も必要です。くれぐれも自己責任でよろしくお願いいたします。
さて、「奇天烈トロッコ」発売前の連載は今回で終了です。
これまでお付き合いくださいましてありがとうございました。
10月2日、軽便祭にてモデルワーゲン社のブースで先行発売、6日に全国の書店で発売の予定です。
是非是非お手に取ってくだされば幸いございます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
立山砂防軌道 2021.05
立山砂防軌道 2022.05
立山砂防軌道 2022.05(許可を得て構内で撮影)
立山砂防軌道 2022.05
立山砂防軌道 2022.05(許可を得て構内で撮影)
関西電力黒部上部軌道 2013.09(欅平上部・許可を得て撮影)
関西電力黒部上部軌道 2013.09
関西電力黒部上部軌道 2013.09(高熱隧道・許可を得て撮影)
関西電力黒部上部軌道 2013.09(仙人谷)
関西電力黒部上部軌道 2013.09(黒部第四発電所・許可を得て撮影)
小口川資材運搬軌道 1981.10
小口川資材運搬軌道 1981.10
小口川資材運搬軌道 1981.10
小口川資材運搬軌道 1981.10
小口川資材運搬軌道 1981.10
当社への御予約特典として、青森さんから素敵なポストカードのプレゼント(^^♪。
発売日まで掲載した写真の中から、3枚セットにしてプレゼントさせて頂きますのでお見逃しなく!
モデルワーゲンからもプレゼントを御用意することに致しました(^^♪。
というのはたまたま古いノートを引っ張り出したら、当時ボクがB5のノートに描いた駒形石灰と正田醤油の見取図を発見してしまいまして、もっと早く編集中に思い出せば良かったのですが、悔やんでももう印刷中(@_@)。
それならばせめて本と同じB5に両面印刷(表は見取図、裏は写真)したものを、各1枚当社からプレゼントさせて頂こうということにしました。
このようなことで書店販売分には入れられませんが、そこのところは何卒御容赦ください。
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