「助六の酒井製5tDLコンテスト」

2003年の珊瑚祭のひとつの目玉が、表記のコンテストでした。この手のコンテストとしては全く異例の、31名の方々から49点という多数の御応募を頂き、主催者としても感謝の念に堪えません。
 審査員には「木曽谷の森林鉄道(ネコ・パブリッシング刊)」や「全国森林鉄道(JTB刊)」の著者として有名で、ご自身もモデラーの西裕之氏を迎え、11月2日に審査をさせて頂き、下記のような結果となりました。
 御応募頂いた方々に、心より感謝致します。         有限会社モデルワーゲン 森川幸一



助六5tDL作品コンテスト総評

 珊瑚祭も大盛況のうちに無事終了し、森川さんを始めとし、スタッフや木曽モジュール倶楽部の皆さん、まずはお疲れ様でした。
 今回の催しで目玉のひとつは木曽助六の5tDL作品コンテストでしたが、審査員という重責をおおせつかり、僭越ながらお力添えをさせて頂きました。その際の感想などを総評という形で皆さんにお伝えしたいと思います。
 モデルワーゲン社のベストセラー機種であろう「助六の酒井製5tDL」キットを用いた作品コンテストとはいえ、正直いってエントリー台数がどの程度集まるのかどうか、過去にあった同様な企画での主催者側の苦労を知る者として、一抹の不安がありましたが。それも蓋を開けてみれば、応募者数31名エントリー輌数は実に49輌と全くの杞憂に終わりました。
 木曽ファンのみならず、全森林鉄道ファンがいかに待ち望み続けてきた酒井5t機なのかは、全ての機種が短期間で予約完売という状況をみても頷けます。しかし昨今の真鍮製キット事情から見れば、組まずに箪笥のこやしとなっている率が実に多い(自分を含めて)中でかくも多数の完成機が集まったということに、正直いって驚きました。
 ひとりで複数台をエントリーされている方々も多く、それぞれが自分なりの昇華法で仕上げられていて、応募された皆さんの思い入れと工作力や塗装のレベルの高さを実感いたしました。そして1輌1輌が甲乙付け難く、それらを審査して賞を決めるというのは、酷なものがあり困難を極めましたが、結果はご覧の通りになりました。皆さんはどう感じられるでしょうか?そして惜しくも選外になった方々にも、それなりに納得して頂けるのではないでしょうか?料理に例えるなら、材料が同じでも調理人や料理法が異なるとこのように見た目や味が変わるのだ、ということを如実に表しています。
 特選は山下さんの謎の97号機で、同じ謎の流線形酒井とのダブルエントリーでした。題材の選択の奇抜さもさることながら、工作力、塗装、雰囲気、仕上げ等文句なく、2輌の優劣もつけ難いので特選と審査員特別賞のダブル受賞となりました。
 一等の高塚さんの作品は秋田県の早口森林鉄道にいて、同線廃止後五城目営林署の杉沢森林鉄道に移籍したという知る人ぞ知る機関車をプロトタイプにしたものです。動力系を変更してキャブインテリアを装備したり、側面ドアや後部窓が開閉可能などかなり凝った作りになっていて、側面ドアの緑十字がインパクトのある良いアクセントになっています。
 二等受賞の栗島さんは実に4輌をエントリーされましたが、その中でもひときわ目を引いたのが黒色に塗られた116号機でした。特徴あるラジエタープロテクターとその裏側にあるオイルクーラーの自作や、本来4t機であるが故の若干前後に寸づまった感じをうまく表現しているのみならず、塗装と仕上げが素晴らしく、極めて細く上手に塗られたグレーのHゴムや、プロテクターの裏からちらっと覗く銀色のオイルクーラーの配管、そして台枠や軸箱の鋳出し文字に入れられた白色など、元来黒色の機関車にありがちなのっぺりとした感じをみごとに変化させて、新製当時の現役バリバリだった頃の魅力的な1輌を再現しています。
 三等の畑中さんの作品は、南木曽町にある山の記念館(桃介記念館)に保存されている、通称桃介酒井こと63号機の現状を再現したものです。正面窓の木枠が斜めに抜け落ちてしまって、塗装もかなりはげちょろな保存機が実は動き出してしまうという、模型ならではのありえない設定で、現役バリバリ時代を彷彿させる栗島さんの作品とは好対照的作品ですが、そのしもげた雰囲気を実にうまく工作や塗装、ウェザリングなどで表現して際立っていました。
 特別賞の眞崎さんの作品は未完成でのエントリーでしたが、なんと軸箱可動で極小モーターと自作チェーンによる前人未踏の実物並みチェーンドライブを試みたものです。蛇足ですが、今回のコンテストの審査において走行性能までチェックする余裕がありませんでしたので、この機を含めて走りに関しては審査の対象外としました。未完成とはいえ、そのひたむきなパイオニア精神と工作力に報いるために特別賞を差し上げることにいたしました。ぜひとも完成させて動く姿を披露して頂きたいものです。
 モデルワーゲン特別賞は森川さんの推薦です。奥さんの作品は一見してお分かりのように、東京営林局千頭森林鉄道で使用されて現在も地元に保存されている機関車を作られたものですが、屋根上に載ったエアータンクや派手な塗装が作品展などにはうってつけの題材です。しかし作るとなると塗り分けも複雑ですし大変なものがあります。誇らしげに四方に付く小さなDB6のナンバープレートが派手な装いに華を添えています。後で御本人に伺ったところ、このプレートは自分でわざわざこの機のために作ったものだそうで、組み立てや塗装などにいまひとつ改善の余地が認められるものの、その思い入れが充分に他人に伝わるような1輌に仕上がっています。
 以上が受賞された方々の作品の紹介です。もちろん比較的素組みに近いようなものであっても、塗装いかんによってずいぶん作品のイメージが変わります。同じ王滝グリーンで実車の色が微妙に違っていたように、これだけ小さい車両が多数集まっても皆それぞれに色調が異なっており、現在残されている数少ないカラー写真からの実物色調の再現とイメージにおける色がかならずしも一致しないのは当然としても、旧国鉄の標準色のようなものがないだけに、これほどまでにばらばらになるとは思いませんでした。
 その中では残念ながら入選は逸しましたが、中部さんの作品は数ある王滝色機の中で、最も現役時の雰囲気を醸し出す様に仕上がっていた1輌ではなかったかと思います。近藤さんや蜜澤さん、柴草さんの作品に見られた窓を少しまたは全開にした作品は、ちょっとした加工で効果的な味を出していました。今回唯一といってよい奇想天外なフリータイプのジープ型(風?)酒井を出品された工藤さんの作品は、そのセンスや工作力に舌をまくほどでしたが、未塗装だったところが唯一惜しまれる点です。大羽さんの現役末期風でいささかくたびれた感じの酒井もまた印象に残った一輌でした。
 実は出品された皆さんのほとんどは年齢的に助六線はおろか木曽の現役時代すら見たことのない方ばかりで、イメージの中にうまく作り込まれていることに大変感心すると同時に、アメリカでいうところのロギングという鉄道模型のジャンルが、いよいよ日本でも確立しつつあるのかなあという万感の思いでいっぱいでした。
 最後に今回貴重な経験の場を提供して下さった森川さんに感謝申し上げるとともに、モデルワーゲン社と参加された皆さんのさらなる発展をお祈りいたします。               西 裕之 記


入賞者の発表(敬称略)


特 選:山下貴之
 木曽の97号機
  木曽の酒井製5tボギーDL(トータルキット)

 



一等賞:高塚慎司
 早口森林鉄道の酒井製5tDL
  助六の酒井製5tDLV(76号機・トータルキット)

 



二等賞:栗島松雄
 木曽の116号機
  岩崎レール製鋼製運材台車(トータルキット3輌)

 



三等賞:畑中 博
 桃介の63号機
  木曽のB型客車U(No.15・トータルキット)

 



特別賞:眞崎弘海
 チェーンドライブの60号機
  集材機セット+岩崎レール製鋼製運材台車(トータルキット)




審査員特別賞:山下貴之
 謎の酒井製5tDL
  西 裕之氏撮影の助六の風景写真(額付き)

 



モデルワーゲン特別賞:奥 清博
 千頭の酒井製5tDL
  もりこー作の「遠山森林鉄道のB型客車」

 



なお、入賞者には作者名をエッチングした特製記念プレートが副賞として用意されます。



参加賞
  特製エッチングプレート(木曽のモーターカーNo.18)

  
工藤芳夫              平田邦彦              高塚慎司


  
高塚慎司              上田吉和              千葉 誠


  
鵜藤茂樹              近藤和磨              中部浩佐


  
栗島松雄              栗島松雄              栗島松雄


  
原嶋泰雄              山口富夫              山口富夫


  
山口富夫              丹羽雄二              中島敏博


  
安達良樹              管 晴彦              上原浩一


  
小埜寺哲雄             柴草敏明              柴草敏明


  
柴草敏明              柴草敏明              新井一雄


  
新井一雄              新井一雄              山根好美


  
蜜澤宗彦              蜜澤宗彦              蜜澤宗彦


  
蜜澤宗彦              上沢秀樹              中島信人


  
中島信人              上條 宏              上條 宏


  
大羽 昴              巻本彰一              豊田 昭