まえがき 夏休みを利用して、僕はワーゲンサポーターの安藤君と共に、北陸の私鉄を訪ねる旅に出掛けました。その旅でインスパイアーされて出来たのが、このストーリーです。 フィクションですから、何も北陸地方にある私鉄という訳ではなく、あくまでも素材としてそれらを利用したに過ぎません。ですから、僕はイメージとして舞台を東北の小私鉄を選びました。読者の皆さんは、自分のイメージする地方に置き換えて下さっても結構。いや、むしろ積極的に”自分ならこういう電鉄がいいナア”というように、もっとイメージを膨らませてみて下さい。きっとそこには模型人だけが味わえる素敵な世界があるはずです。でも、まずは、出羽電の旅に御一緒しませんか?
奥羽本線も秋田を過ぎると、右手に八幡平の優美な姿が、たわわに実った稲穂の海の向こうに見え隠れするようになる。
この駅に立つのも、何年振りだろうか。遠い親戚が男鹿湊の近くに住んでおり、子供の頃は親に連れられて、学生時代は東北旅行への撮影旅行の道すがら、よく立ち寄ったものである。見覚えのある駅名標。沿線案内には”出羽電鉄乗り換え”と書かれている。
ここで、出羽電鉄について説明をしておこう。出羽電鉄は奥羽本線出羽鮎川を支点としてV字形に路線を展開しており、八幡平の麓の湯治場・湯ノ山温泉に向かう通称山線と、日本海の漁港・男鹿湊に向かう通称海線から成り立っている。 |